現代の企業が直面する人事労務の課題に、いかにして的確に対応するか。
経済のグローバル化が加速し、多様性に富む労働市場が形成される中で、企業の人事・労務担当者はその舵取りを迫られています。
そんな中、経済界における重要な役割を担ってきた経団連が公表する「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)は、企業が抱える多くの問題に対する鍵を提供しています。
本記事では、「2024年版経労委報告」に基づいて構成された実務書を詳しく解説し、その魅力を紐解いていきたいと思います。
構造的な賃金引上げの実現に不可欠な生産性の改善・向上
「2024年版経労委報告」の第1部では、「構造的な賃金引上げ」の実現を目指すために、生産性の改善や向上が鍵となることが紹介されています。
この分野では特に、働き方改革やDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)を通じて労働生産性を向上させる取り組みが強調されています。
現代の働き方改革は、単なる業務時間削減にとどまらず、プロダクティビティを高めつつ、多様性と包括性を組み込むことで、個々の従業員が持つ潜在能力を最大限に引き出すことを狙いとしています。
さらに、円滑な労働移動の推進により、人手不足が問題となる産業への労働力の再配置が促進されています。
これは、企業間の労働移動を柔軟にし、適材適所の人材配置を可能にすることで、各業界の競争力を向上させる一助となります。
また、最低賃金引上げによって、全体の賃金水準の引上げを図る動きも紹介され、これにより国内の消費活性化が期待されます。
このような多角的アプローチが、賃金構造の改善に寄与することが示唆されています。
2024年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンス
第2部では、2024年春季労使交渉・協議に向けた経営側の基本的なスタンスが示されています。
日本経済全体の動き、特に労働市場や企業収益の動向を踏まえた統計データの分析を基に、賃金や社会保険料の動向が掘り下げられています。
特に近年の物価上昇や消費者動向に応じた賃金の改定状況が注目されています。
また、連合や各産業別労働組合の2024年春の労使交渉に向けた方針や、賃上げにあたっての経営側の基本スタンスに関する詳しい情報が提供されているため、具体的な交渉の場面でも参考になる内容です。
市場動向を見据えることが、未来の企業戦略の鍵であり、本書の情報はその指針となることでしょう。
巻末資料と統計資料を活用する
巻末には、ビジネスに役立つ多くの資料が収められています。
労使交渉の現場で必須となる統計データや、旧労働契約法20条をめぐる判例解説といった実務に直結する情報が網羅されています。
このような資料は、担当者が迅速かつ正確な判断を下すための強力なサポートツールとなります。
特に、現代の労働市場では、法令や判例が常に変化しているため、一歩先ゆく情報収集が欠かせません。
この本に収録されている過去の裁判例や法改正についての情報は、比較分析を通じてより深い理解を得るための一助となります。
この実務書が持つ利点と活用方法
経団連出版の「2024年版経労委報告」に準拠した本書の最大の特徴は、理論と実践を結びつけた内容が含まれていることです。
企業事例を豊富に取り上げているため、書面上の情報にとどまらず、実際の企業活動の中でどのように活かされているかを具体的に学ぶことが可能です。
また、さまざまな業界からの事例を通じ、共通する課題とその解決策が明示され、新たな施策のヒントとなることでしょう。
そうした情報により、自社のアプローチを見直す機会になるかもしれませんし、他社の成功事例をもとに自社の戦略の修正を図ることもできます。
企業事例から学ぶ: 実際の改善活動
企業事例の章では、15社の選ばれた企業での具体的な取り組みが紹介されています。
それぞれによって異なるが共通する課題を前に、それをどのように克服したかのプロセスが詳細に綴られています。
労働移動の円滑化を進めることで人材の最適配置を実現した企業や、最低賃金引上げを果敢に進めることで企業内部のモラルを高め、結果として市場競争力を強化した企業の成功例などが取り上げられています。
これらの事例を通じ、理論だけでなく、具体的な行動計画の策定に結びつけることで、企業活動の改善を図るヒントを提供しています。
人事・労務担当者としての役割を考える
人事・労務担当者にとって、企業の生産性向上や賃金構造の改善は重要な課題です。
派手な変革を求める時代だからこそ、ふさわしい改革を実行し、社内環境をより良くする責任があります。
本書はそのための指南書となりえます。
現場で得た知識を生かし、多様な意見を取り入れながら、個々の企業風土に適した形で変革を進めていく支えになります。
最終的には、個々の能力を開花させ、企業全体としての生産性を高めるために、どのようなアプローチを取るべきか、一つの方向性を提示してくれるでしょう。
このようにして、経団連事務局が制作したこの実務書は、経労委報告の理解を深め、企業の未来に向けた力強い一歩を踏み出すための欠かせない一冊です。
様々な変化に対応し、より効果的な働き方を目指すために、ぜひ手にとってみてください。