序章: 日立という壁
日立製作所という名前を聞くと、数多くの家電製品やインフラ事業、そしてITサービスなど、多岐にわたる事業を手掛ける一大企業グループが浮かび上がります。
この強大な日立ですが、かつては「大企業病」とも言われる数々の課題に直面し、その解決は容易ではありませんでした。
その根底にあったのは、社内にある数々の「壁」です。
会社の規模が大きくなればなるほど、変革が難しくなるのは一般的なことですが、それでも日立はこの壁を乗り越えるべく、様々な改革を遂行してきました。
2009年、日立は製造業史上最大の赤字を計上します。
この時期、社内には「言い訳文化」や「事なかれ主義」、明らかに変えるべき壁として取り組むものがありました。
新たに就任した経営陣は、この壁を打破し、日立を再び強い企業へと導くことを目指しました。
「ポラリスを見上げて」と題したの第1章では、企業としての方向を再定するためのコンパスが示されています。
ここで示されている「壁」の打開策は、ただ単に経営数値を向上させることだけを目的としたものではありません。
実際に現場で働く人々の意識を変え、現場の力で新しい日立を築くための実践的な取り組みが記されています。
これは、大企業においても小さな変化がどのように大きな影響を持つのかを示す良い例です。
稼げる会社になるための戦略
日立の進化の過程で、重要な要素となったのは「稼げる会社」となるための改革です。
第2章では、日立が如何にして稼ぎ頭となる事業を創出し、企業全体の収益構造を改善したのか、その戦略が解説されています。
歴史的に多くの事業を手がける多角化戦略を持つ日立でしたが、過去の戦略に固執していては、時代の変化に対応できません。
特にこの章で触れられるのは、技術力の革新をどのようにして市場ニーズに合わせて迅速に製品化し、利益を生むかです。
「ルマーダ」というプラットフォームの導入にも現れていますが、日立はITとOT(オペレーショナルテクノロジー)の融合により、新しい価値を創造しています。
これにより、単なる製品提供からサービス提供へ、そしてデジタルトランスフォーメーションを強力に推進しています。
その過程では、データ活用やAI技術の導入が重要な役割を果たしています。
日立の「稼げる会社」への転換は、単なる帳簿における黒字化を意味するものではありません。
これからの企業経営における収益性の持続可能性を考え、どの分野に投資し、どの事業を強化するかの判断が求められます。
まさに、企業の経営資源をどのように再配分するかの取捨選択が厳しく行われたのです。
ルマーダ始動: 日立の新時代
日立の変革を象徴するプラットフォームとなったのが、「ルマーダ」です。
「ルマーダ」は、デジタルを活用して社会課題を解決するための仕組みであり、日立が目指す新しいビジネスモデルの中核を成しています。
ルマーダの大きな特徴は、デジタル技術を活用して効率的にソリューションを提供すること、そしてこれを通じて顧客価値を最大化することです。
日立は、ルマーダの導入に当たり、これまでの縦割り構造を超えて、組織横断的なコラボレーションを重視することになります。
これにより分野を超えた協力体制が整い、新たな価値創出が可能となりました。
さらに、「ルマーダ」の下で、データアナリティクスやAI技術を活用したソリューションが次々に誕生し、さまざまな産業分野での競争力強化に繋がりました。
ルマーダの成功を通じて日立は、単なるイノベーション提供企業から、社会全体に付加価値を与える企業へと生まれ変わりつつあります。
この変化は、日立がグローバル市場でどのような役割を果たすのかを再定義するものであり、これによって社会全体への影響力もますます強まっています。
日立のDNAに脈打つもの
「日立のDNA」では、この企業に受け継がれてきた伝統と精神が詳細に記され、いかにしてそれが変革に活かされているかに焦点が当てられています。
日立における「DNA」とは、単に技術力や製品開発力を指すのではなく、企業文化や価値観をも表しています。
特に重要な点は、日立が持つ「現場力」と「チームワークの精神」です。
これは、どんなに優れた技術や経営理念があっても、現場で具現化されなければ意味を持たないという考えに基づいています。
実際に、現場で働く社員一人ひとりの力が改革の推進力となり、規模の巨大さに依存することなく、柔軟な対応を可能にしています。
このDNAが未来のリーダーたちにも引き継がれ、日立全体の変革を支える原動力となっています。
それは、個が集まって組織となり、組織がビジョンを実現するために一丸となる姿勢であり、「全体の最適化」を常に目指すという日立の根本的な志向でもあります。
この精神があるからこそ、日立はこれまで幾多の壁を乗り越えることができたのです。
私の経営理念: 自律分散型グローバル経営
筆者自身の経営理念として語られる「自律分散型グローバル経営」は、日立の経営改革における非常に重要なテーマです。
グローバル市場における競争は日々激化しており、もはや固定された戦略では対応しきれません。
この理念は、現地での自主的な経営判断を推奨し、地域の特色やニーズに応じて柔軟に活動していくことを可能にするものです。
自律分散型の経営においては、中央集権的な管理から、現地組織の自主性を重んじ、現場でのリアルタイムな対応を支える体制が求められます。
このような思想の下、日立は世界各地でのオペレーションを最適化し、グローバルに質の高いサービスを提供することができるようになっています。
これはまた、従業員一人ひとりが責任を自覚し、自らの役割を務めることで、組織全体の成長を促すと共に、個人の更なる成長もサポートするという相互作用を保証します。
筆者のこうした経営理念は、日立を単なるビジネス組織から、世界に貢献する社会的存在へと導く礎ともなっているのです。
未来の日立への期待と課題
日立製作所が目指す未来について、最後の章では非常に明確なビジョンが示されています。
それは、単にビジネスを拡大するだけでなく、社会全体に与える影響力を高め、持続可能であることを重視した成長を達成することです。
未来への課題としては、人材育成やテクノロジー活用のさらなる促進が挙げられます。
特に急速に進展するDX(デジタル・トランスフォーメーション)やAI技術の発展に対し、日立はどのように対応し、新しい成長の源とするかが鍵となります。
また、グローバル市場全体でのブランディング強化や持続可能性に根ざした事業活動が求められており、それには、すべてのリーダーが自分事としてこれらの課題に向き合うことが必要不可欠です。
結局のところ、日立が如何にして諸々の壁を乗り越え、世界においてもその存在感を示し続けるか否かは、これからの日立自身の行動にかかっています。
これらがページを捲る度に伝わってくる、この本の最大のメッセージに他なりません。
私たちが歩んでいく未来において、日立製作所が果たす役割はこれからどんなものになるのでしょうか。
そして、読者である私たち自身もまた、この物語を通じて、変革を見据えるきっかけを得るのではないでしょうか。